始めに、座長の川口市立医療センター診療局長の栃木武一氏より、次のような基礎データの紹介があった。
埼玉県の人口と出生数
人 口 7,075,839 人(2005年6月1日現在)
男女比 1対1
出生数 63,224 人(2003年)
出生率 9.1
埼玉県内の産婦人科医師数(2005年1月1日現在)
総数 531名 その内、女性医師数 90名(16.9%)
産婦人科医師がゼロになった病院数(2003年〜2004年:厚生労働省HPより)
1186病院中 117病院(9.9%)
産婦人科医師定員不足の病院数(2003年〜2004年:厚生労働省HPより)
31.8%
日本産科婦人科学会員の年齢分布(2003年〜2004年:厚生労働省HPより)
50歳以上が52%を占め、40歳以下は減少し、70歳以上が増加している
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座長の導入に続き、1番目のシンポジストとして、埼玉県草加市の木下博信市長より、人口23万7千人を抱える草加市で中心的病院である草加市立病院で、今年春から分娩を休止せざるを得なくなった経緯とそれに対する考えが以下のように述べられた。
もともと、5人の産婦人科医師で分娩を行っていたが、一人の医師が退職したのをきっかけに、一人が病欠、一人の研修医が十分な研修ができないとの理由で転出し、残った産婦人科医師が2名になってしまった。市長らが、さまざまな大学に産婦人科医師派遣を要請したが、派遣する医師がいないという理由で欠員を補充することができなかった。残った産婦人科医だけでは、「安全な分娩ができない」ことから、婦人科だけを残し分娩は休止せざるを得ない事態に至った。
産婦人科医師の補充ができなかったことの理由として、研修医制度が変わり、昨年から2年間は新たに産婦人科医になる医師がいないため、派遣元の大学病院でさえも、産婦人科医師が不足していることが考えられる。しかし、もっと根本的な理由として、産婦人科医師と小児科医師が、もともと顕著に不足していることが挙げられる。この2つの科の医師が不足してしている原因として、これらの科は基本的に365日24時間対応、重い責任、高いリスクと医師の負担が重いにも関わらず、待遇面で、他の科の医師と差がないということが問題であると感じており、草加市としても待遇面の改善を考えている。
しかし、産婦人科医師の不足という問題は、草加市だけで解決できる問題でなく、国レベルでの取り組みが必要であり、国政に対し、この点をお願いしたい。
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埼玉県北部で産科救急に対する唯一の応需病院である深谷赤十字病院の山下恵一副院長は、同病院の産婦人科医師の過酷な労働状況について発表された。
病院の常勤産婦人科医3人と、5人の非常勤産婦人科医で診療を行っている。この人数で、毎日、産婦人科当直を行わなければならないため、常勤医は、月に5〜6回の当直と9〜12回の自宅待機を行わなければならず、毎月、14〜18日が拘束されている。比較のため、大学病院を除く埼玉県内の9つの基幹病院にアンケートを行った。その結果、産婦人科医師数は、3名と最低、産婦人科医師1人当たりの分娩数は、231件と最高、産婦人科医師の平均年齢は、48歳と最高であった。
産婦人科医師の数が足りないことにより、常勤医師にとっては、拘束される日(当直と自宅待機)が多い、超過勤務が多い、過労状態が続くといった悪い労働条件のもとでも、精一杯がんばって働かざるを得ない状況にある。もし、常勤医師の一人でも病に倒れたら、第2の草加市立病院になってしまう(もし、そうなったら、埼玉県北部では産科救急に応需できる病院がなくなってしまうことになる)。
当面、産婦人科医師の増員は見込めないことから、「助産師外来」など、助産師の活用によって、産婦人科医師不足に対応する「チーム医療」としての方法を模索している。
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さいたま赤十字病院部長の安藤昭彦氏は、「群馬大学医学部産科婦人科学教室の現状から産婦人科医不足を考える」と題して、群馬県の実情も交えて発表された。産婦人科医師の不足の原因として次のような事由を挙げ、悪循環により産婦人科医師不足が一層進行していると述べられた。
1.産婦人科医師不足:全医師数に占める産婦人科医師数の割合が減少。特に産科
を行う医師数が減少。新しい研修医制度により、全国で、大学から常勤医の派
遣を受けている病院の4分の1が、非常勤医の派遣を受けている病院の3分の1
が医師の引き上げを経験した。
2.女性医師の増加:女性医師で休局(休職)者が多い。これは、必ずしも出産・
育児のためではないが、理由の詳細は不明。
(産婦人科の仕事がきついため?)
3.他の科と比べ、多い当直回数:内科(系)の医師と比べ、産婦人科医師の当直
回数は、倍以上。
4.多い医療訴訟:肉体的疲労に加え、精神的疲弊が蔓延している。
5.ハイリスク妊娠分娩の増加と周産期救急医療体制の不備:不妊症治療などが
盛んになるにつれハイリスク妊娠分娩が増加する一方で、周産期センターを始
めとする産科救急応需病院が少ないことにより、産科救急応需病院の勤務医師
の負担が増大している。
6.将来、産婦人科医師を目指す医学生の減少:一人の医師の負担が増大し、診療
に余裕が無くなっている。
こういった状況を打破するためには、行政、医療従事者および消費者である県民を交え,地域の実情に応じた周産期医療システムを構築し、安全快適な分娩を供給することで、医学生、研修医に周産期医療の魅力を感じてもらうことが大切である。
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埼玉医科大学総合医療センター産婦人科教授の竹田省氏は、「大学・周産期センターとしての産科医不足」と題して、発表を行った。
はじめに、「産科医不足SOS」、「常勤医引き上げ 休診へ」など産婦人科医師不足問題を取り上げた新聞記事を紹介。続いて、基幹病院の産科がなくなる理由として、3つの点を指摘した。
1.地域産科医療の崩壊:基幹病院の産科勤務医師が不足し、残った産科医師にそ
の分の負担がかかる。結局、過重労働、重責から、やればやるほど燃え尽き症
候群に陥って、基幹病院勤務を辞めて開業する道に進む。すると、益々、基幹
病院の産科勤務医師が不足するという悪循環に陥っている。
2.産婦人科医師は減少の一途:産婦人科医師の40%以上が60歳以上と高齢化が進
む一方、新たに産婦人科を志望者する新人医師は、医師国家試験合格者の3〜
4%に減少。
3.女性医師の増加:出産、育児などのため、産科勤務をフルで働くことが困難。
次に久留米大学産婦人科の大田俊一郎先生の資料を元に、大学の産婦人科医師の過酷な労働実態が提示された。
・一日平均勤務時間が12時間以上と答えた医師:78.5%
・月11回以上の当直または拘束があると答えた医師:45.2%
・当直時の平均睡眠時間:4.8時間
(埼玉医大総合医療センター産婦人科当直ではほとんど0時間)
・一ヶ月の平均休日日数:2.5日
家族からのコメントの例:
「家族の一員としての時間が取れるようにしてほしい」
最近は、新人の大学離れが進み、大学に産婦人科医師として残る者が減少する一方、学生実習や研修医制度の変更に伴い学生や研修医の教育の負担も増加している。そのため、大学の産婦人科医師は、疲弊し、燃え尽き、うつ病により長期休業に至ったり、家庭内不和、離婚など、日常生活においても様々な問題を抱えることになる。
結局、産婦人科医師不足を解決するということは、現役産婦人科医師を救済することを意味すると指摘し、最後に中・長期的解決策として、産科施設の再編、無過失保障制度、保険制度改正(センター病院に対し、ハイリスク妊婦分娩管理料など手厚く)などの提言がなされた。
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最後に、埼玉県産婦人科医会会長の柏崎研氏より、最近は、Quality
of “my” life
を考える若い医師が増えており、産婦人科が敬遠されていること。医会としても様々な提言をしていることが述べられた。また、埼玉県の統計として、出生数は毎年減少傾向にあるが、低出生体重児の出生数は逆に増加傾向にあることが示された。
産科医療の現状ということで、平成17年6月末日現在の埼玉県某市の実情が報告された。年齢構成では、
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年 齢 |
30歳台 |
40歳台 |
50歳台 |
60歳台 |
70歳台 |
80歳台 |
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人数(人) |
1 |
7 |
2 |
6 |
10 |
5 |
であり、働き盛りと言える年齢の人は、4分の1にすぎず、産婦人科医師の極端な高齢化が進んでいる。また、分娩取り扱い施設は、個人開業21施設の内わずか4施設、中核病院3施設の内わずか1施設にすぎず、平成4年の分娩取り扱い施設数(個人開業13施設、中核病院2施設)と比べ、その数が急減していることが示された。
最後に、小児科においても負担が多く、医師の生活環境の改善が望まれている点が指摘された。
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2.シンポジウム【第2部】 小児救急医療の現状報告 |
埼玉県保険医療部副部長の宮山徳司氏、埼玉医科大学総合医療センター小児科教授の田村正徳氏、埼玉県立小児医療センター総合診療課長の鍵本聖一氏、埼玉県小児科医会会長の羽鳥雅之氏により、小児救急医療の現状が報告された。
小児科は診療報酬が低く、若いうちからローリスクハイリターンを求める傾向にある若手医師から敬遠される傾向がある。医師総数は右肩上がりに増加しているが、小児科医師の割合は減少し、小児科を有する病院数も減少してきている。また、東京都と比較して、埼玉県は小児人口当たりの小児科医師数は、3分の1、毎晩小児科医師が救急当直している病院数は、11分の1など、地域や診療科における医師偏在の問題が指摘された。
小児科開業医師の職住分離が進み、夜間時間外は診てもらえないことが多いため、大学病院に、夜間1次救急の患者さんが押し寄せてきている。いわゆる大学病院においては小児救急医療のコンビニ化(24時間、気楽に受診できる)が急速に進み、2次3次の重症患者の診療に支障をきたしたり、小児科医師の過重労働から辞めていく医師の増加という深刻な事態を引き起こしている。また、不妊症治療の増加に伴い、1000g未満の超低出生体重児が急増していることも小児科(新生児科)の過重労働に拍車をかける原因となっている。いわゆる、燃え尽き症候群に陥った医師は開業するか、小児救急の無い施設に転出し、残った医師の負担増という悪循環を引き起こしているという問題が指摘された。
産婦人科と小児科に関する2つのシンポジウムに引き続き、衆議院議員で厚生労働委員会の委員長である鴨下一郎氏による講演が行われた。
産婦人科医師と小児科医師の不足に関しては、新研修医制度により2年間、約1万6千人の新人医師がいわゆる“市場”に出てこないということも関係している。来年の春に最初の研修明けの医師が市場に出てくる時、産婦人科医師、小児科医師が増えるかどうか、推移を見守る必要がある。
産婦人科医師、小児科医師不足に関しては、医師総数は増えてきているため、問題は、偏在(診療科、地域、施設、時間帯など)にある。また、供給面から見ると、新研修医制度の問題の他に、女性医師の増加に伴う実労働時間の減少(?)が、需給面から見ると、患者1人にかかる時間と労力が増えたこと、またチーム医療を行うためにある程度の数の医師が必要になったことなどが考えられる。
産婦人科医師、小児科医師が少なくなった原因について、医政局の人と話しをした。最近は、医師がリスクに対し回避的になってきているためか?。はやっている施設ほど、医療過誤や分娩で障害児の生まれるリスクは高くなるが、労働の割に報われないと若い医師が感じて医師が集まらないといった事態になっている?。
この問題に対し、診療報酬を上げれば良いという議論もあるが、医療費総額が決まっているという問題がある。また、時間外診療をすべて保険でまかなうとしたら財政的負担が大きく、受益者負担も考える必要があるのか?。来年春の診療報酬改定では、優先度としては、高齢者医療がトップである。周産期医療や小児医療への配分は、全体の中での力関係で決まってくる。小さい子どもを抱えている親は選挙に行かないことが多く、政治に対して力が弱い?。産婦人科や小児科に対する待遇改善をしたいが、選挙で票に結びつきやすい高齢者重視の動きは変わらない。
問題解決策として、リスクが大きすぎて辞職する者を出さないように、国や県レベルで、守り合うシステムを作るべきと考える。また、患者の“ブランド志向”を是正して、先ず近所の産婦人科、小児科で診療を受けるように導く必要がある。1つの施設が閉鎖されると、その近隣の施設の負荷が増加し、さらに閉鎖に追い込まれる施設が増えるといった悪循環を断ち切る必要がある。さらに子育て支援をどうするかといった問題もある。
鴨下氏は、限られた時間で十分には話しきれなかったとし、引き続き行われる総合討論での議論に委ねたいとして講演を締めくくった。
最後にフロアからの発言も交えて総合討論が行われた。口火を切ったのは、フロアの助産師で、分娩の多くは助産師だけですむと考えられ、そういう意味で施設で働いている助産師を活用することが産婦人科医師不足対策になるのではとの提言がなされた。
診療報酬改正に関連して、鴨下氏より、総額が決まっているため、どこかを増やせば、どこかが減ることになる。具体的にどこをどうしてほしいかということを示す行動を起こしてもらいたいと述べたことに対し、フロアから、産科(婦人科を除く)、小児科を重点的に考えてほしい、決められた医療費総額でやらなければならないという発想を変えてもらいたい、20兆円くらい増額しても良いのではないか、そのために胎児保険のようなものを作って原資にあてるような受益者負担の制度も考えてほしいという意見が出された。
さらにフロアからは、様々な意見が噴出した。絶滅の危機にあるのは、センター病院の産科と小児科だけである。妊産婦死亡が少ないのは、医者ががんばって助けているからであって、センター病院の産科が絶滅したら妊産婦死亡は増大する。分娩は安全でないことを理解しないとこの議論は進まない。ブランド志向と言われるが、そのブランドの施設では、生理痛の患者にMRI検査を行ったりしている。これでは、いくら医療費があっても足りなくなってしまう。一人で産科を行っているような施設では、月に25日以上、病院に拘束されている。産科を志す若人を増やすためには、一般の人が楽しむようなことがある程度できるといったことが保障されなければならない。産科を含めて外科系の医師は、50歳を過ぎると肉体的な衰えから手術などが難しくなる。産科医師が少ないのは、収入が少ないためであり、収入を増やすようにすべき。50歳までに十分蓄えができて早めに引退できるようになれば、若い人たちが産科に参入しやすくなる。2次救急相当の小児医療は既に崩壊している。小児科医師個々人の負担増によってなんとか持ちこたえている状況。小児救急では、月によって患者数の変動が大きく、患者数が減る月にも安定した収入が得られるような手立てを考えてほしい。変な悪平等(保険でなんでもまかなう)という固定観念は捨てるべき。アルバイト禁止の公務員規定をはずして、人的に豊かな施設から手薄な施設に手助けに行きやすい環境を整備することも大切。など、など。
発言希望者はまだまだいたようであったが、予定時間を大幅に超過してしまったため、埼玉県産婦人科医会副会長の久我裕道氏の閉会の挨拶をもって、公開シンポジウムは幕を閉じた。
文責 馬場一憲(埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター)